iDeCoの名称が大分知られるようになりましたが、個人型確定拠出年金の愛称です。
個人型というからには企業型確定拠出年金もありますが、iDeCoのメリットやデメリットを認識するとともに、iDeCoを含む年金制度の概要を説明します。
【今回の記事でわかること】
- 年金制度の概要
- iDeCoは画期的な制度
- 投資は積立
- 税制面で有利
- iDeCoのデメリット
この記事を書いた人
手塚英雄 (てづかひでお) 長野県在住
有限会社テヅカ・プラニング 代表取締役
保有資格
1級ファイナンシャルプランニング技能士 CFP®認定者
DCプランナー(企業年金) 証券外務員
経歴
大学卒業後エンジニアとしてサラリーマンになるが、10年経過後独立起業する
金融商品投資、不動産投資を自ら行うファイナンシャルプランナー
活動内容
• 地元新聞にお金に関するコラム14年継続執筆
• FPの役割は可処分所得の増大化だけでなくお金の使い方を顧客とともに考えること
• 心理学を取り入れた金融教育は分かりやすいと好評である
• 自らの金融資産、不動産投資の経験を通じてセミナーを行う
• 老後資金準備として確定拠出年金を指導する
• これまで主催したFP技能士講座にて約600名を指導する
年金制度の概要
現在日本の年金制度は1階部分に国民年金、2階部分に厚生年金があります。
この2つの年金は公的年金と言われ、国民年金は20歳以上の日本国民全員が加入します。
一方厚生年金はサラリーマンや公務員等が加入します。
iDeCoは3階部分に当たり私的年金と言われています。
3階部分に当たる私的年金はiDeCo以外に企業型確定拠出年金、確定給付年金、厚生年金基金などがあります。
これらは企業が独自に設ける福利厚生制度の一環として導入されています。
iDeCoは個人で加入する3階部分に当たる私的年金ですが、個人が加入できる制度として自営業者が加入する国民年金基金(自営業者は厚生年金に加入しないので2階部分相当)、多くの方が加入する生命保険の個人年金も私的年金に当たります。
年金の仕組み
国民年金保険料は毎年わずかに増減しますが、令和3年度は月額16,610円です。
この国民年金保険料を20歳から60歳までひと月も欠かさず払い続ければ、65歳からこれも毎年わずかに増減しますが国民年金額年額781,700円が一生涯受け取ることができます。
年額781,700円は月額に換算すれば65,141円になり、この金額だけで老後の生活を送るのはなかなか難しいので自助努力による個人型の年金制度が追加されました。
2階建て部分の厚生年金は企業に勤めている人が対象になります。
勤め始めてから退職もしくは70歳まで保険料を払い続けます。
保険料は給与(正確に言えば標準報酬月額)に対して18.3%を企業と個人で折半します。
給与が増えれば保険料も増える仕組みになっています。
配偶者が専業主婦であっても個別に国民年金保険料を払うことはなく、第3号被保険者として加入します。
かつて3階部分に当たる私的年金は確定給付型が主流で、企業のみが保険料を負担してきました。
確定給付型は受給する年金額としての給付金が確定しているが、保険料に当たる掛金は不確定という仕組みです。
給付金が確定していれば従業員にとって退職後のライフプランが立てやすくなります。
一方当初の予定利率を下回った場合の不足金は企業が負担します。
かつて金利が7%を超える時代に予定利率5%を基準に給付金設計を行えば、金利が下がれば負担する保険料は莫大になります。
金利が下がったからと言って給付金を下げることは不利益変更になりますので勝手に変更はできません。
そこで新たに登場したのが都度の保険料は確定しているが、将来の給付金は不確定の確定拠出年金です。
これは拠出する掛け金は確定ですが給付金が未確定になり、金利・価格変動リスクを企業から個人に転化したことになります。
運用結果が直接個人の年金額に反映されます。
iDeCoは画期的な制度
サラリーマンは年末に年末調整が行われるので、基本的に確定申告は行いません。
また月々の給与は源泉徴収されるので税金や社会保険料の多寡に関心を持ちません。
たとえ関心を持ったとしても資金繰りに悩むことはないので痛みを感じません。
そもそも源泉徴収制度は戦費を効率よく集めるために作られた制度ですが、戦争が終わってもサラリーマン等から税金を徴収する方法として現在も残っています。
直接税金や社会保険料を払うとなれば、その分をあらかじめ貯え、定期預金を解約することになります。
身を削る思いをすれば当然節税方法を考えるでしょう。
それが給与を支払う側から直接徴収できれば徴収する側にすればとても合理的です。
これまでサラリーマン等が年末調整や確定申告を行う事例としては、保険料控除、住宅ローン控除を行うなどに限られます。
税金等は勝手に決められ差し引かれるものと無関心になりがちでした。
サラリーマン等は収入に対する必要経費に自ら関わることが少なかったのです。
iDeCoはお得
ところがiDeCoの掛金は支払った分全額が必要経費であり、収入から差し引くことができます。
収入から必要経費を引いた所得が少なくなれば、所得税、住民税が少なくなります。
個人事業主には事業にかかわる必要経費、確定申告に対する所得控除項目はいくつもありますが、サラリーマン等にはほとんどありません。
iDeCoが導入された当時は企業年金制度がないサラリーマンと個人事業主を対象としましたが、公務員や専業主婦は対象としませんでした。
その理由として公務員の収入はそもそも税金を基にしているので、掛金を所得控除として節税することはいかがなものかとして対象に含まれませんでした。
専業主婦は収入がないので、所得控除が節税に働かないことから対象から外れました。
ところが公務員も退職後の公的年金だけでは足りず、自助努力を促す目的があります。
専業主婦は離婚率の上昇を受けたせいか専業主婦の資産形成の一つにiDeCoが役立ち、離婚に伴い夫の厚生年金の分割も行われるようになりました。
iDeCoの画期的なところは税制面だけでなく、資産の運用先に国内外の株式、債券、不動産を取り入れた投資が行われるようになったことです。
これまで投資と言えば金持ちの戯れ、ギャンブルの一種、損をするから怖いものと思われていました。
真面目に働いたお金は定期預金に入れておけば減ることはなく安心と思われていました。
金利が高い時代は定期預金でさえ多くの利息が付いていました。
老後の資産形成制度に投資が入ってくれば、検討せざるを得ません。
iDeCoでは投資を好まず元本確保型を選択することもできますが、これでは資産増加は期待できません。
投資は積立
これからはAIとフィンテックの時代だから関連銘柄にまとめて資金をつぎ込もうとする姿は、どこかルーレットに賭ける姿と似ています。
一括投資は投資した時点より上昇すれば利益が得られ、下落すれば損失が発生します。
投資した時点からの高低が収益に直接影響を及ぼします。
常に底で投資するタイミングを計ることは神業に近いでしょう。
つまり安く買って高く売ることは難しくても安いときに大量に購入し高くなったら売却することはさほど難しくありません。
ドルコスト平均法
この方法を「ドルコスト平均法」といい毎回定額を変動する市場に資金を投じます。
相場が高いときは少量しか購入できませんが、相場が下落してくれば大量購入できます。
相場の高低にかかわらず人の感情をはさまず自動的に定額で買付を行います。
その結果平均購入単価は下落時に大量購入しているので、毎回定口購入より低くなります。
この方法は相場が上昇すれば購入量は少ないが、保有している資産価値が上昇します。
精神的に少量購入はマイナス、資産上昇はプラスに働きます。
相場が下落すれば購入量は多くなり、保有している資産価値が下落します。
精神的に大量購入はプラス、資産下落はマイナスに働きます。
人の感覚や先入観は精神的に変化しやすいので、自動的に購入を継続します。
定期定額購入の投資方法は初心者向けといわれますが、投資として合理的だけでなく人の精神的な揺らぎを抑えるにも有効な方法と思われます。
ドルコスト平均法では相場価格が下落を継続中であれば、資産は投資元本より減額しますが、相場価格がわずかに上昇すれば資産は投資元本を上回る傾向があります。
これは下落中に資産口数を増やしているので、わずかな上昇でも資産価値は大きく上昇します。
投機やギャンブルは参加者が投じた資金を管理運営する元締めがあらかじめ差し引いた残りを参加者に分配します。
よって投じられた資金以上に儲かることのないゼロサムゲームが行われます。
投資の波に乗る
ところが投資はどうでしょう。
景気が良くなれば株価は全体的に上昇し、時代をリードする銘柄は何倍、何十倍にも上昇することがあります。
誰かが勝って誰かが負ける構成はありません。
投資の売買するタイミングを分散するように投資する銘柄も分散します。
株式であれば国内の銘柄は聞き馴染みがありある程度の投資判断が付きます。
ところがIT業界をリードする銘柄は国内にはわずかしかありません。
また日本国内の人口は減少していますが海外では人口増加、GDP拡大が行われています。
投資対象を国内に限らず海外にも目を向けたいです。
資本主義の取引は100円で仕入れたものに付加価値をつけて130円で販売します。
基本的に原価割れの80円で販売することはありません。
全ての事業者がこのように拡大再生産に準じて事業を行います。
企業は常に拡大や成長がなければ存在できません。
景気には小さな波大きな波がありますが、世界のGDPを見れば右肩上がりで成長し続けます。
投資はこの波に乗ろうとしています。
勝ち負けや利回りを論じるより自分の長い人生と重ねて投資戦略を立てます。
税制面で有利
iDeCoでは掛金が所得控除になることはお話ししました。
実は掛金の上限は決められていて、勤務先で企業型確定拠出年金がないサラリーマンは月額23,000円、勤務先で企業型確定拠出年金に加入しているサラリーマンは月額20,000円となります。
公務員は月額12,000円、専業主婦は月額23,000円が上限になります。
自身の所得税率が10%では勤務先で企業型確定拠出年金がないサラリーマンは月額23,000円年額276,000円ですから27,600円節税になります。
所得が少なくなれば住民税も少なくなります。
運用益が非課税
次に運用期間中は運用益が非課税になります。
金融商品から発生する利子、配当、売買益には20%の税率が掛けられます。
20%が源泉徴収され残りが自身の金融機関口座に振り込まれます。
ところが現在は東日本大震災からの復興財源を確保するために復興特別所得税が平成25年から25年間所得税の額に2.1%が上乗せされています。
金融商品にかかる20%の税率は所得税15%住民税5%が合算されていますから、所得税15%が15.315%となります。
住民税には上乗せされません。
iDeCoでは運用益が非課税となりますので、金融商品にかかる所得税15.315%と住民税5%がかかりません。
税金が引かれることなく運用されることは複利で運用されることと同じになりますので、運用効果ははるかに高くなります。
公的年金控除
最後にこれまで運用して貯めた資産を受け取る際の税金にも税金がかかります。
年金収入は雑所得扱いされますが、公的年金控除が適用されます。
2020年度分からこの公的年金控除が少し変更になりました。
かつては65歳未満と65歳以上と年齢区分による控除額の違いがありましたが、2020年度分からは年齢区分に加えて所得区分が追加されました。
公的年金以外の所得が1,000万円以下、1,000万円超2,000万円以下、2,000万円超と3区分になりました。
年金受給者でも所得が多い人には多くの税金を負担してもらう意図です。
公的年金以外の所得が1,000万円以下の65歳未満の方では、公的年金収入が60万円以下では税金がかかりません。
公的年金収入が60万円を超え130万円までは控除額は60万円で変わりません。
一方公的年金以外の所得が1,000万円以下の65歳以上の方では、公的年金収入が110万円以下では税金がかかりません。
公的年金収入が110万円を超え330万円までは控除額は110万円で変わりません。
このように受け取る年金が公的年金控除の適用がなされれば、所得が抑えられ税金が少なくなります。
また一括で受け取る際は企業などから受け取る退職金と同じ退職所得控除の対象になります。
退職金の場合、勤続年数に応じて退職所得控除が増減しますが、iDeCoでは加入年数になります。
例えば自営業者が40歳から60歳になるまでの20年間積み立てた場合、退職所得控除額は800万円となります。
一時金として受け取る金額が800万円以下であれば、税金はかかりません。
iDeCoは掛金を払う際、運用される際、年金を受け取る際に優遇税制が適用されます。
普段直接税金を払っていないと優遇税制の効果を実感しづらいかもしれませんが、iDeCoは節税しながら資産形成できる制度です。
iDeCoのデメリット
老後の生活資金を貯めるといえばiDeCoは優れた制度でしょう。
デメリットと言えば「60歳まではお金を下すことができない」ことでしょう。
老後の生活資金に限定した資産形成制度と割り切ればデメリットとは言えません。
貯まったお金を教育資金や住宅資金、マイカー購入資金に充てることはできません。
担保にはできない
またiDeCoの資金を担保にお金を借りることもできません。
そして制度に加入できる人は60歳未満に限定され、60歳を過ぎた高齢者の資産運用手段に利用することはできません。
社会人になって初めて就職した会社に定年退職まで勤務し続ける方は、かつてに比べると少なくなりました。
女性の場合は結婚、出産に伴い勤務先や働き方を変える方は男性以上でしょう。
勤務先が変わり働き方が変わってもこれまで貯まったiDeCoの資産を原則として下すことはできません。
新たな勤務先に企業型確定拠出年金制度があれば資産の移行をします。
専業主婦でもパート従業員でも無職になってもiDeCoを継続します。
無職になり収入が無くなれば掛金は払えないので、掛金を支払わない「運用指図者」になります。
これまで貯えた資産に対する運用指図は行いますので、口座管理や運用にかかる手数料が発生します。
無職になれば目先の資金繰りに追われ老後の生活資金など後回しになるかもしれませんが、新たな収入の目途が立った際には掛金を追加し継続したいものです。
おわりに
年配者に言わせれば、気づいた時には50代になって退職までカウントダウンが始まっていました。
働き方改革の一環として高齢者の雇用期間が延長されつつありますが、もう少し若いうちから資産形成を始めれば良かったと思われています。
資産形成ばかりではなく投資と付き合うにも世の中の変動と自身の心の変動を見つめる必要があります。
退職金を一括で誰かに運用してもらうことこそが最大の危険と言えるでしょう。
他人の運用方法を真似て運用が失敗すれば誰のせいにするのでしょうか。
自分で決めて自分が責任を取ることが試されます。
投資は長い時間をかけてコツコツと貯めながら自身もその間お金との付き合い方を学ぶことになるでしょう。