相続時の注意すべきこととは?~相続放棄と限定承認について専門家が解説~

お金の悩み

相続放棄とは、端的に言えば相続人が被相続人(亡くなった方)の残す財産を受け継がないことです。

相続を放棄してしまうと、はじめから相続人ではなかった者として扱われることになります。

法律的には相続放棄の効果は誰に対しても、例えば登記等の対抗要件が備わっていなくてもその効果を生じることになります。

【今回の記事でわかること】

  • 相続財産の内容
  • 相続放棄の検討する場合とは?
  • 限定承認を検討するケースとは?
  • 限定承認のメリット・デメリット
  • みなし譲渡所得税
  • 負債と相続の関係
  • 消費者金融とクレジットカード会社からの借入れには注意が必要
  • 期間の伸長の申立ての活用
  • 期間を伸長した方が良い実例
  • 相続放棄の判断は慎重に
  • 相続放棄の必要書類と手続き方法について
  • 相続人がいない相続財産はどうなる?
この記事を書いた人
岩井 和幸/行政書士 

大学卒業後、某大手損保会社のサービスセンターに8年間勤務、在職中に行政書士の資格を取得。損害保険金の支払い調査などの業務を担当。その後、地元の不動産会社に転職。在職中に宅地建物取引士の資格を取得。賃貸物件の仲介、家賃管理、リフォーム工事などを担当し10年間勤務する。2019年9月に独立し、現在は行政書士として前職の経験を活かし、相続関係や債務整理における不動産の任売や競売物件の相談、遺言書の作成相談、各種保険の加入など多岐にわたる業務を取り扱う。

1、相続財産の内容

相続する財産の中には現金や不動産などのプラスの財産の他に借金などのマイナスの財産が存在する場合があります。

実際、相続の現場では相続放棄の理由として一番多いのがマイナスの財産を相続したくないということです。

その他にも、相続のことで身内との争いに関わりたくない、そのような煩わしい思いをしたくない、させたくないというような場合も相続放棄が検討されています。

ただし、注意しなければならないのが相続放棄すると、マイナスの財産だけでなくプラスの財産の一切の相続を放棄することになります。

どちらか一方だけを相続するということは不可能なのです。

2、相続放棄の検討する場合とは?

よって一般的な考え方といたしまして、相続財産の中でプラスの相続財産よりもマイナスの相続財産の方が多いことが明確で、相続人が借金など不利益を被ることが明らかな場合には相続放棄をした方が良いとされています。

例えば、被相続人が莫大な借金を残して亡くなり、被相続人の財産だけでは返済が不足してしまうというケースでは、法定相続人がこれを相続するとかなりの借金返済義務を負ってしまうことになります。

しかし、相続放棄すればそのような負担を被ることは一切ありません。

ちなみに、相続放棄をした場合には、その元相続人は相続開始時からすでに法定相続人ではなかったことになってしまうため、その他の相続人の相続割合分が増加したり、相続権がなかった者が相続権を取得したりすることがあり得ます。

つまり、自分が相続放棄することで他の人に影響が出てしまう可能性もあります。

なお、自分が相続放棄を行ったことで自分の子どもに相続財産がいくこと(代襲相続)はありませんのでご安心ください。

一方で相続放棄をするかどうかを慎重に判断した方が良いケースもあります。

例えば、相続人について資産と負債の割合がはっきりしていないケースです。

このような場合、相続放棄をした後、資産の方が上回っていれば、相続人は損をしてしまいます。

このような場合には相続放棄よりも「限定承認」という方法をとることもできます。

3、限定承認を検討するケースとは?

限定承認とは、被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合に、相続人が相続によって得た財産の限度で、被相続人の債務の負担を受け継ぐことです。

実際の例では相続財産が1000万円の借金と、500万円の美術品だったとします。

このとき、相続人が美術品を形見として残したいと思ったとき、借金の債務者に500万円を支払うことで、美術品を受け継ぐことができます。

法律的には、被相続人の借金1000万円のうち、プラスの財産の美術品の価値500万円の範囲で、借金(500万円)を受け継ぐことになるので、限定承認が行われたことになります。

4、限定承認のメリット

このように限定承認のメリットとしては、相続財産を超える債務は相続しなくて済むという点です。

そして、たとえ結果的に手元に残る財産はプラスマイナス0円だったとしても、債権者の中に親族や親しい人がいた場合には、相続放棄して一切の債務を拒絶してしまうよりも、債務を返済する額が多くなって多少なりとも関係性の維持ができたりするケースもあります。

5、限定承認のデメリット

逆に限定承認のデメリットとしては、相続人が自分だけ単独なら問題ありませんが、相続人が複数いる場合、その共同相続人全員で手続きをしなければならない点が挙げられます。

つまり、共同相続人のなかに1人でも限定承認に反対する人がいる場合には、限定承認ができず、単純承認か相続放棄を選ぶことになってしまいます。

また、手続き的にも相続放棄より煩雑になります。

相続放棄の場合は、家庭裁判所に対する相続放棄の申述が済んでしまうと、相続放棄手続きとしての手続きはほぼ完了となり家庭裁判所からの照会や相続放棄の申述の受理通知を待つことになります。

一方、限定承認の場合は、家庭裁判所への申述後に相続債権者や受遺者への清算手続きが必要になります。

さらに税務の面でも限定承認を行う際には、多くの場合で相続財産を売却・換価して債務の弁済に充てることになりますが、その際に被相続人に対して「みなし譲渡所得税」がかかることがあります。

6、みなし譲渡所得税

みなし譲渡所得税とは不動産など含み益がある財産については取得時と売却時で価格が異なることは一般的ですので、被相続人が相続財産を現在の相場(時価)で売却した収入があったとみなすためです。

もっとも、限定承認は、相続財産の範囲で借金も相続する手続きなので、ほとんどの場合では債務と売却益が相殺され、譲渡所得税がかからないということもあり得ます。

限定承認を行う際には、譲渡所得税がかかるかかからないかの見極めも大事になってきます。

7、負債と相続の関係

それからこれは事情によりますが、被相続人に借金がある場合には、借金額の大小に関わらず、限定承認を考えるのが得策と言えます。

なぜなら単純承認をした後で多額の借金が判明した場合には、その後に限定承認や相続放棄が原則的にできないからです。

例えば、相続財産が1000万円あり、判明している借金が500万円だったから単純承認をしたのに、後から2000万円の借金が判明したら大ごとになります。

ただし、こういったケースも珍しいことではありませんので、単純承認をする場合には、被相続人が債務超過に陥っていないかはきちんと調査しなければなりません。

8、消費者金融とクレジットカード会社からの借入れには注意が必要

その調査に関してですが、注意しなければいけないのが消費者金融やクレジットカード会社から借金をしていた場合です。

実は2007年くらいまでの時期、多くの消費者金融やクレジットカード会社は利息制限法より高い利息(グレーゾーン金利)で、お金を貸していました。

その高い金利で貸し付けを行っていたお金を借りていた人は、取られすぎた金利分を取り戻すことが可能です。

この過払い金返還請求は借金をしている本人はもちろんのこと、借金をしていた本人が亡くなった後、相続した人でも請求は可能です。

被相続人に借金があるからといって簡単に相続放棄をしてしまうと、その相続放棄をした後に過払い金の請求をすることはもちろん出来なくなってしまいます。

9、期間の伸長の申立ての活用

こうした調査から判断する期間は相続開始を知ってから3ヶ月以内に行わないといけませんので、限られた期間内で、多くの必要書類を揃えて裁判所に申述書等の提出をしなければならないたいへんな労力となります。

ただし、仮に期限内に調査が終わらないなどの事情がある場合には、当初の3か月の期限内に家庭裁判所に対して「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」を行うことで、この期限を伸ばすこともできます。

したがって、どうしても期限内に調査が終わらず、相続財産が分からない、どの手続きをすればよいか判断がつかない事情がある場合には、期間の伸長の申立てを利用してみるのも良い方法かと思われます。

10、期間を伸長した方が良い実例

実際のケースで時間をかけて良かった例といたしましては被相続人の事業を継ぐ者に遺産を相続させたい場合は他の相続人が相続放棄をするという方法もありますが、これを機会に債務状況を整理し、改めて家業を立て直すために限定承認を選択するという方法でした。

限定承認を選択すると、プラスマイナスゼロの状態から事業を再出発することができますので、相続人全員が事業再建に合意していることが前提にはなりますが、相続放棄よりも限定承認の方がより良い選択だったかなと思われます。

ただし、これもそれぞれの事情によるところはありますので、実際に事業を継続する上で重要な取引の相手先などに多額の債務がある場合には、限定承認をするかどうかはよく検討した方が良いと思われます。

限定承認をすると相続人は相続財産の範囲内でしか債務を相続しませんが、債権者は全額の弁済を受けられるとは限りません。

債務超過で限定承認をする際には、債権者が多くて全員に全額を支払いきれない場合には、各債権者の債権額に応じて按分して弁済されることが一般的です。

他のケースでも相続財産の中に先祖代々の家宝や不動産などの特定の遺産だけは手元にどうしても残しておきたい場合ですが、限定承認をすることをおすすめ致しました。

限定承認を行うと「先買権」という権利が行使できるようになり、共同相続人が十分な資産を有し、かつ、残したい遺産の評価額を弁済することができるのであればその遺産を手元に残しておくことは可能です。

もともと借金などの債務がなければ、相続財産はすべて承継することができますし、借金の心配がある場合で、しかも残したい遺産がある場合に最適な方法が限定承認だと思われます。

11、相続放棄の判断は慎重に

以上のように限定承認とは、相続を受けた人が、相続財産から亡くなった人の借金などを精算して、財産が余ればそれを受け取るという方法ですが、一方で相続放棄は借金を含めた財産の一切を相続しないという方法です。

いずれを選択するにしろ、相続が発生した早い段階から、相続人の確認や相続財産の調査し、相続しても良いかどうかを判断できる状況に持っていくということが重要となります。

先述のとおり、もし相続放棄を行うとしたら、相続が始まってから3ヶ月以内に必要書類を揃えて裁判所へ申し立てする必要があります。

この期限を過ぎてしまうと、遺産に含まれた借金も相続してしまう危険性が高まってしまいます。

12、相続放棄の必要書類と手続き方法について

具体的には下記の書類が必要となってきます。

  • 相続放棄申述書
  • 収入印紙 800円
  • 連絡用の郵便切手(申述人の人数や各裁判所によって異なります。申述先の家庭裁判所に要確認)
  • 被相続人(亡くなった人)の住民票除票または戸籍附票
  • 相続放棄する相続人(申述人)の戸籍謄本

以上が基本的に必要となる書類ですが、それらに加えて別途書類が必要になるケースもあります。

例えば被相続人の親が相続放棄する時は被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、被相続人の配偶者または子の出生から死亡までの戸籍謄本などが必要になります。

上記の必要書類の提出先の家庭裁判所は、どこでも良いという訳ではありません。

提出する家庭裁判所の場所は、被相続人が亡くなった住所地管轄の家庭裁判所になります。

また、提出方法は2種類あり、家庭裁判所へ出向いて書類を提出するか、家庭裁判所へ郵便で送付するかのどちらかになります。

そして相続放棄の手続きが無事に終わりますと、その相続人は初めから相続権を持っていなかったことになります。

そして、その相続人が死亡してしまった場合と異なり、相続放棄を原因として代襲相続が起きることはありません。

わかりやすく言えば、被相続人の父親が亡くなり、その配偶者と子供一人が法定相続人となった場合で、先にその子供が亡くなっていた場合はその子供(被相続人の孫)が代襲相続します。

しかし、その子供(法定相続人)が、単に相続放棄をした場合は、その子供(被相続人の孫)は法定相続人にはなれません。

13、相続人がいない相続財産はどうなる?

ちなみに相続放棄をして他に相続人がいなく、行き場のなくなった財産で、結果的にプラスとなったものは、その財産は国庫に帰属すること(国が所有する資産)になります。

実際には相続財産管理人の選任から債権者や受遺者への公告などの手続きを経て、相続財産が国庫に帰属するまでに約1年ほど時間を要することになります。

かなり手間と時間がかかる手続きですので、被相続人の方には、もし自分に相続人がいないことが前もってわかっている場合は遺言書で親しい人に遺贈することや、どこかの慈善団体に寄附するなどの形式でご自身の財産の行先をご自身でお決めいただくことをおすすめしています。

14、まとめ

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最後になりますが、相続放棄をするかどうか検討される場合には、3ヶ月間という限られた期間内で、迅速正確に相続する財産を調査・査定する必要があります。

また、もし一度相続を放棄してしまうと、原則撤回は認められないので、その判断はより一層慎重に行うことが大事です。

後々に悔いを残さないためにも、ご自身で時間的余裕がない場合や判断が難しい場合などは法律の専門家に依頼して、任せてしまうことも良い方法だと思われます。

この記事を書いた人
岩井 和幸/行政書士

大学卒業後、某大手損保会社のサービスセンターに8年間勤務、在職中に行政書士の資格を取得。損害保険金の支払い調査などの業務を担当。その後、地元の不動産会社に転職。在職中に宅地建物取引士の資格を取得。賃貸物件の仲介、家賃管理、リフォーム工事などを担当し10年間勤務する。2019年9月に独立し、現在は行政書士として前職の経験を活かし、相続関係や債務整理における不動産の任売や競売物件の相談、遺言書の作成相談、各種保険の加入など多岐にわたる業務を取り扱う。

HP:行政書士岩井和幸事務所